「使命感を持ちチームと進む」
石山 アンジュが語る仕事--3
助け合いがシェアの原点
「お互いさま」を仕組みに変える
就職してから、業務で担当した日本企業の多くで、個人の人生は組織の倫理にかなり左右されると知りました。それに強い違和感があった私は、組織に依存しない自立的な働き方を選べないのかと考えるようになり、個人同士で仕事のやり取りができるシェアリング分野の会社へ転職。やがて「シェアリングエコノミー協会」の発起人から誘いを受け、新たな分野への普及を目指す協会に籍を移して活動を始めました。
当時、海外からライドシェア(乗り合い)や民泊などのサービスが入ってきましたが、まだ受け入れ態勢も未整備で印象が悪かった。それで、どのような社会課題を解決する産業なのかを具体的に分かりやすく伝える努力を続けました。シェアリングは、困った時は「お互いさま」という昔からの文化とよく似ています。私の祖母は、かつては近所の人だけでなく、町の誰もがこまやかに支え合っていたと話してくれますが、まさに、日本の暮らしに根付いていたその「お互いさま」の文化を、現在のテクノロジーを用いてもう一度作ることがシェアリングなのです。
例えば、北海道の天塩町では少子高齢化で人口の減少が著しく、電車もバスも便数が減り、「交通弱者」や「買い物弱者」と呼ばれる高齢者が増えていました。あるおばあさんは遠方にある市内の病院に行きたくても、公共の交通では日帰りできなかったそうです。この状況を変えるために天塩町では、マイカーで移動する人と車を持たない人をつなぐ「相乗り交通」という取り組みを始めました。これは自治体とライドシェアサービス会社との協力で実現したのですが、シェアリングを通じた新しい助け合いとは、こういう形で行き詰まった問題に貢献できるのです。
もう一つ例を挙げると、レタス産地で名高い長野県の川上村でも、シェアリングの取り組みに携わりました。この村では女性がとにかく忙しい。繁忙期は農作業に加えて家事、子育てのほとんどを担い、また「家同士の付き合いは女性がやるべき」という古くからの慣習で自由がない環境でした。ここでは、家事や子守、買い物などを地域住民に頼めるサービスをシェアの仕組みとして開発し、子育て世代の皆さんに時間の余裕を作り出していきました。
課題解決に、シェアの視点を
便利になった現代の暮らしの中でも、手を貸して欲しい、助けて欲しいと感じることは少なくありません。でも、直接自分から近所の人に頼むのは難しいのが実情です。そこに、インターネットを通じることで、「こういうことを助けて欲しい」という人と「それなら手を貸せる」という人のマッチングが生まれます。その後川上村では、手作りジャムを作って起業する人も現れ、新たなコミュニティーが生まれて元気に活動しているそうです。
かつてあった地縁コミュニティーが失われていく中、結婚などで他府県からやってきた人は居場所が見つけづらい。その課題にも、共助の再構築が役立つと実感しています。他にも、高齢者の一人暮らしや介護、就業の悩みなど様々な課題をシェアならどう打破できるだろうか、考え続けていきたいですね。(談)