仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「仕事は自ら作っていける」
古舘 理沙が語る仕事--3

就職活動

失敗のパターンをつかむ

納豆を食べてしのいだ独立2年目

26歳で落語の面白さを知り、寄席に通い詰め、生涯落語に関わる仕事をと決めたのは約4年後。勤務先を辞し、ただ一人で「寄席演芸興行 いたちや」を創業。独自の落語会開催を目指して寄席でのアルバイトも始め、落語家さんへの出演交渉から会場設定、販促物のデザイン、チラシ配り、そのほか必死で奔走しながら1年目の2010年は過ぎていきました。
 
しかし、いよいよ大きな公演を立ち上げた翌年3月に東日本大震災が発生。その後の計画停電などの影響もあってか、1月、2月に比べて3月以降はガクンと動員数が落ちてしまいました。また、いきなり未経験の世界に飛び込んだがゆえの人間関係の難しさや、地道に準備してもうまくいかない会もあって、事業は日ごとに困窮していきました。
 
家賃が払えるかどうかの状態になり、恥を忍んで実家から送ってもらった米と野菜ジュースに、毎日納豆と卵くらいしか食べられない。通帳残高はいつも数百円。いよいよ食べる物もなくなったとくじけそうになった時、チケットが1枚売れて3千円の入金があり、「これで1週間は生き延びられる」と感謝するような、そんな生活が1年ほど続きました。
 
ただ、それだけ食べていくのが大変でも、好きな落語の世界に関わっているから気持ちが落ち込んだことはないんです。嫌な仕事をやっていてお金が苦しいなら地獄ですが、「じゃあ、次はどうしよう」と知恵を絞るのも、好きな落語に関わることだから楽しく感じる日々でした。
 
それでも、はたから見れば順調じゃないのは一目瞭然。色々な師匠方から「修業ですよ」と声をかけて頂きました。落語家さんたちは「頑張れ」といった直接的な励ましは一切なさらず、どなたも「修業だよ」と同じ言葉をさらりと投げてくださるだけ。このまま進んでいいのだと、現実を受け入れる気持ちになれました。

ミスを分析し、判断力をつけた

逆風ばかりの中で仕事を続けるうちに、ありとあらゆる失敗をし、その度に「どうすればよかったんだろう」と考え、私は失敗を分析し始めます。例えば座席の重複販売やお金のミス、制作物のミスなど、基本的に技術とチェックするシステムで防げる失敗は、経験を積めば減らせます。
 
ただ、ミスの中には本人が苦手な分野を担当しているからという場合も多く、ヒューマンエラーは仕事とのミスマッチで起きやすいものです。私自身、今日まで人間関係における失敗をかなりしてきましたが、それは本質的に人との関わり合いが苦手だからかも知れません。それを自覚することで失敗を減らそうとしてきました。
 
こうして、独立から3年経つ頃には何とか黒字に転化し、5年後には共同ではありますが事務所を構えることもできました。また、7年目には「フリーランスの勲章(笑)」とも言える税務調査が入り、それがきっかけで18年に法人化したのです。
 
そして、落語に加えて講談の面白さにも気づくようになりました。講談も古くから愛されている芸能ですが、落語しか知らなかった私は初めて見た時、あの迫力ある語りに驚きました。落語が淡々として深い「水墨画」とするなら、講談はまるで「劇画」の面白さ。どちらも多くの人に楽しんでもらいたいと、仕事は更に熱を帯びていきました。(談)

ふるたち・りさ ●冬夏(株)代表取締役社長。1981年兵庫県生まれ。国際基督教大学卒業。(株)リクルートにて営業職を半年務め転職。雑誌『VOGUE』『GQ』日本版の編集者を経て、落語に魅せられ2010年に「寄席演芸興行 いたちや」を創業。20年まで興行師として活動し、現在は講談師・神田伯山のマネジメントや、YouTubeチャンネル「神田伯山ティービィー」の制作・プロデュースなどを手がける。同チャンネルは19年度のギャラクシー賞テレビ部門フロンティア賞を受賞。
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