「仕事は自ら作っていける」
古舘 理沙が語る仕事--4
新メディアで活路を開く
YouTubeならダイレクトに届く
たった一人で立ち上げた「寄席演芸興行 いたちや」は、悪戦苦闘の末3年目には黒字化することができました。やがて落語に加えて講談の公演も手がけ始めますが、関わるようになったのは、夫である現在の六代目神田伯山と結婚した4年ほど前です。
講談も古くから愛されている一人語りの芸能で、表現の力強さ、物語の面白さは、まるでそこに歴史上の人物が生き返ったような臨場感があります。そして読み物は、およそ4500にも上ると言います。しかし演じる場は時代と共に減り、講談師の数も減少していました。
そんな講談を普及したいと伯山は熱意を持って臨み、講談に関しては素人ながら私もその魅力を伝えたいとサポートしています。普及のためなら何でもやってみようと、数年前から伯山はラジオやテレビなどのメディアにも出ていくようになりました。
ただ、メディア出演しても演芸専門番組以外で講談を演じられる時間は限られており、求められるのは話が面白い講談師としてのトーク。また、独演会などライブで観(み)る機会も限られています。だから課題は、もっとダイレクトに講談の世界を見てもらうことです。私はその手段として独自の動画配信ができるYouTubeを考え、制作準備を進め、今年2月、六代目襲名披露公演と楽屋裏の模様も毎日配信していきました。
本当に運良くこれが功を奏して、披露公演に足を運んでくださるお客様が日ごとに増えていったのです。講談の存在が伝わっている、面白さが届いている、そんな熱っぽい実感がありました。しかし3月20日まで予定されていた寄席での披露公演は、新型コロナウイルスの緊急事態宣言を受けて3月10日で中止。それでも活路を見つけた手応えは十分でした。
知ってもらえれば壁はなくなる
いいものがそこにあっても、知られなければ無いと同じこと。YouTubeの実践は、まさにそれを痛感させてくれました。寄席の楽屋に芸人さんたちが集まり、笑いがあふれるその映像を見て多くの人が寄席の魅力を知ってくださった。未経験の寄席はハードルが高いとちゅうちょしていた人や、地方や海外に住む人が自分も披露公演に行った気分になれたと喜んでくださったりしました。
世界中に発信できるすごさ。視聴者が無料でいつでも、どこにいても見られる新メディアで、私たちは情報の壁を越えることができます。「私があなたに届けたいことはこれ!」と言える時代になったなと思います。自分でも何かできると力が湧いてくるではありませんか。
今あなたが会社勤務だとしても、それだけで一生を終えるほど人生は短くないと私は思っています。だから折に触れてもう一つの仕事、自分が手がけたいことを考えていきませんか。私もまた、今とは違った新しい世界に踏み込むかも知れません。
大切なのは、やりたい仕事や好きなことを本気で探し続けることではないでしょうか。自分が何で食べていきたいかを突き詰めれば、実現の可能性は十分です。(談)