「プレッシャーをエネルギーに」
北條 真紀子が語る仕事--2
未知の仕事でも逃げない
なぜ、買って頂けないのか
大学時代から司会やリポーターのアルバイトを始め、卒業後も人材派遣会社で同様の仕事を続けていました。そんな私に28歳で転機が訪れます。会社の指示で受けたオーディションでテレビショッピングのキャストに採用されたのです。カメラの前で生放送60分の通販番組を担当し、商品を販売する役割です。私にはセールスの経験がなく不安だらけでしたが、採用された以上は役目を果たすべきだと考えていました。
そうして入ってから2週間は、制作担当者からキャストとしての役割や番組の進め方を、バイヤーからは商品紹介に関して、マンツーマンで指導を受けました。ただ、どうすれば買って頂けるか、売り上げを増やせるかといったことについては明確な答えはありません。研修中に言われたことは「大きな売り場ではなくお客様とのつながりを持てる小さな売り場で、ここなら安心と思ってくださる場所を作れ」でした。
今ならその大切さが分かります。でもまだ全てが未経験の私には呪文のようで意味不明(笑)。こうして2週間の研修後すぐに60分の番組がスタートします。私のフリートークを頼りにお客様がお買い物をしてくださる。そのことに対しての責任を痛感し、生放送の怖さを感じました。
何か学べるヒントが欲しい。そんな中で、先輩のキャストたちが私と同種の商品を扱っている番組を見つけました。そこから言葉や表現などを拾い集め、先輩が使って業績が上がっているならと試してみたのです。ところが先輩と同じくらいのセールスには届きません。
果たして、お客様が買いたいと感じられるポイントは何なのか。番組の放映数を重ねても結果が出るわけではなく、まるで修業をしているようだと感じる長い日々が続きます。しかし、ここで仕事をものにできないまま逃げるという選択をしたら、他の現場に行っても後悔するという思いがありました。
私だけの言葉が必要だった
もがいている私に助言をしてくれたのは、売り上げと時間を管理しているセールスプロデューサーです。「人のまねをしているうちは伸びないよ。君が思っていないことを話しても、それは誰かの感想。自分が本当に良いと感じて話していないから誰にも伝わらないんだ」
その通りでした。それまで私が経験してきたリポーターや司会などの現場では、筋書き台本があり、私がどう思うかは関係なく、こう伝えてという一連の流れが決まっていることが大半だったのです。その日から私は他の人の放映を一切見ず、自分の番組を見ることに集中しました。これはとてもつらいもので、表情や映り方、話の振り方など見ていられない場面ばかりだと気づきます。そこでまずそれを変える努力から始めました。
最初の頃の私はオンエアが怖くて腰が引けていました。その映像を見返してみるとやっぱり自信のなさがリアルに映っていて、ご覧頂いても楽しめない番組だったのです。自分が商品の良さを実感する当事者にならなければ、お客様には伝わらない。この本質にたどり着いたことで、新たな仕事に向けて努力すべき道筋がやっと見えてきたのです。(談)