「プレッシャーをエネルギーに」
北條 真紀子が語る仕事--1
思いがけず通販の世界へ
戸惑ったオーディション
28歳からテレビショッピングのキャストという仕事に就きました。バイヤーが買い付けた商品をカメラの前でご紹介し、ご注文を頂く売り手の役割です。ただ、当初は自分から目指していたわけではありませんでした。
私は将来の仕事をあまり意識せず、地元の中学高校へ通い大学に進みました。ただ、叔父がNHK朝の連続テレビ小説のプロデューサーでしたので、幼い頃からよく現場の話を聞いていました。そのせいかテレビ画面の向こう側には憧れたものです。学生時代にはアルバイトでモーターショーの顧客対応やイベントの司会をしていました。
就職活動の時期、父は企業への就職を願っていたかも知れません。でも私には、華やかで楽しそうな世界への思いがずっとありました。社会人になってからも人材派遣会社に所属し、オーディションを受けて、派遣先で司会やリポーターをするのはやりがいがあり、私にとっては面白い仕事でした。
そんな28歳のある日、派遣会社からテレビ通販企業のオーディションがあるから書類を出しておくと言われます。オーディションを割り振るのは社長とマネジャーの役割で、いつものようにハイと返事はしたものの、ふと私の年齢が上がったからかなと感じました。リポーターなどの仕事には若い人が次々に参入してきますが、20年ほど前の通販番組で扱われていたのは補聴器といったもので、話し手は年上の男性という印象を持っていたからです。
オーディションを受けたのはアメリカと日本の合弁企業。審査する方々が並ぶ中、「これを持って一人でプレゼンテーションしてみて」とバッグを手渡されました。私はテレビ通販というビジネスや番組のスタイルもよく分からないまま、初めてアドリブでバッグの説明をしてみました。そうしたら終えた直後、仕事の提案を受けたのです。
キャストは販売担当と知る
普通、オーディションでもらう仕事はごく短期の案件がほとんどです。でもここでは、2週間ほど研修を受けてから毎日出勤して欲しいとのこと。しかも担当するテレビ番組は生放送の60分で、それをたった一人で話すというスタイルでした。戸惑って派遣会社の社長に連絡すると、そんなに大変なのかと逆に驚かれました。それほど当時の私にはテレビ通販が身近ではありませんでした。
また、この仕事は小売業であり、商品が主役で、あなたは売り手であると説明されました。今までの仕事でしゃべり手としては経験を積んできましたが、セールスの分野では経験もノウハウも全くありません。未知の仕事なのにできるだろうかと強い不安を感じてしまいました。
そんな落ち込む私に、映像の仕事をしている友人が近くにあった水中メガネを手に取って、これを楽しく話してみたらいいと実演を始めました。「見てください、こんなにきれいなブルーでこんなにぴったりフィットして!」なんて。そのユーモラスな姿で気持ちが安らぎ、どうすれば魅力的に見えるか、私もひたすら練習してみたのです。ポジティブにと心を決めた一つの転換点でした。(談)