「たとえ、前例はなくとも」
井上 純子が語る仕事--4
働くママも勇気を持って
「ママなぜ働くの」に答えを探す
前例がほとんどない一人の公務員によるコスプレ、「バナナ姫ルナ」の地元PRは、珍しさもあって思いがけなく好意的に迎えられました。メディアの取材も増えていき、継続的に幾つもの企画も打ち出して、1年8カ月もの長きにわたって活動は続きました。
私の子どもの存在を公表しないという課の方針の中、PR業務は週末も多忙を極め、子どもたちには本当に寂しい毎日を強いてきました。就職したからには仕事をきちんとやりたいという気持ちは、若い母親でも世の働く人々の一人として同じだと思います。でも、圧倒的な時間不足や子どもへの罪悪感など、心身共に追い詰められる実情はなかなか理解してもらえません。子育てしながら働く母親は、今も職場で「戦力にならない」と言われるプレッシャーに耐えているのではないでしょうか。
そして私は、引退を決意。北九州市長も同席したイベントでバナナ姫ルナの引退あいさつをし、応援してくださった市民への感謝と共に3児の母であることを打ち明けました。驚きとどよめきが広がり、働く母だったとメディアも報じました。しかし、私は自分の仕事をやり遂げただけ。若いママたちへ、仕事と子育てのどちらも続けていける可能性を伝えたかったのです。
例えば職場に迷惑をかけたり、業務が遅れたりすることがあっても、「いつかこの時期を乗り越えたら、きっといい仕事をする日が来る」と自分を信じて欲しい。「使えない」と思われても、心の中の誇りを失わないでくださいね。
きっと最も気持ちが揺れるのは、寂しさに耐えかねて聞かれる「ママはなぜ働くの?」という質問。私にもグサッと刺さりました。どうぞ、その答えを探し続けてください。それは自分にも子どもにも大切なことだと思います。
とりあえず、悩んでも歩く
現在、バナナ姫ルナの活動は、引退後悩んだ末に個人活動として再開しています。ファンの声の後押しもあり、やり遂げたかった2代目へのバトンを渡すための一歩を踏み出しました。
頭で考えて悩んでいるより、やってみた方が道は開ける。これが私の現在の思いです。仕事では、短期間で失敗だったと評価されることも少なくありません。でも、子育てママが即戦力にならないと疎まれる時間も、世の中に役立つための実体験を積んでいる期間なのだとは言えないでしょうか。長期で考えると、様々な課題を工夫しながら乗り越えていく毎日は、仕事力の知恵につながりませんか。
働きながら家族の介護を担う時代には、育児と仕事の両立に闘い抜いた女性のノウハウは心強いと思います。生意気なようですが、今までの「普通」という物差しを覆すのは、追い詰められた人かも知れません。地方都市の公務員で働く母である私の、「こんなことをして大丈夫か」と心配されたコスプレ地元PRも同じです。そしてその根本にあったのが、故郷の活性化への願いだったからこそ間違っていないと進むことができました。
前例がないけれどやった方が良いと感じることが、誰の胸にもあると思います。いつか自分を信じて、これでいいと動き出す日が来るように願っています。(談)