仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「現実を丁寧に生きて働く」
片渕 須直が語る仕事--3

就職活動

逆境でも理解者を探そう

前例がないことに着々と挑む

アニメーションの仕事で、自分がどれほどの技術を持って貢献できるか。それを大切にして、「ちびまる子ちゃん」や「あずきちゃん」など多くの仕事に携わってきました。そして、日々を食べていくには困らないけれど、私はその仕事の中で「自分にしかできない仕事に挑みたい」という思いも試し続けていたのです。

実際にそうした機会も何度となく与えられたのですが、色々な現実的な事情に左右されて、「自分自身の作品」を持てるというところまではたどり着くことがかなわずに来ていました。どうすれば道が開けるのか。そう考えていた時期に、ダイアナ・コールス著『アリーテ姫の冒険』の書籍広告を見たのです。どうやら、閉じ込められたような環境にいるお姫様が現実の壁を乗り越えていく物語らしい。でもどうやって? それを知りたくて映像化に挑むことにしました。

この作品は、企画を考えてから実現するまで本当に長い年月がかかりました。主役は、力のあるヒーローや誰かに助けてもらえるヒロインではありません。自分らしく生きていないような気持ちでいる人です。ちょうど当時の私のように、30代も半ば近くになって自分の人生はこれでいいのかと自らに問う頃でしょうか。でも当時、それをテーマにする、そんな力がアニメーションにあるとはまだ考えられていませんでした。

しかし私は、自分を曲げずに、私が求める世界に執着しようと思ったのです。自分自身がこの映画で救われるのなら、同じようなもう何人かのお客さんも救えるかも知れない。そういう人たちのために作ろう。こうして、何人かのプロデューサーたちが「それでいこう」と言ってくれ、そこから心細いながらも映画作りを始めることができたのです。しかし、道はまだまだ険しいものでした。映画を作り上げることができても、それを上映してくれる映画館が見つからなかったのです。

一人の力だけで道は開けない

試写を観(み)たある映画館の方はこんなふうに言って、上映を承諾しなかったそうです。「この主人公の女の子は一回も笑顔を見せないじゃないか」。それはそうです。アリーテ姫には本当に切実なものを背負わせていましたから。笑顔一つ浮かべられない状況があるのだ、ということをまず描く必要があると思っていたのです。

結局、出来上がった映画『アリーテ姫』はほんの限られた回数しか上映されませんでした。けれど、そんな作品を捨てておかなかったのは、他ならぬお客さんたちでした。

この映画はもっとたくさんの人たちに観てもらうべきものだ。そう思った人たちが、映画館を借り切って『アリーテ姫』を上映してくださったのです。2作目の『マイマイ新子と千年の魔法』では、観客の人たちが続映を求める署名を集めてくださいました。私も毎日映画館で舞台あいさつに出て、お客さんたちと一緒に過ごしました。3作目に作った『この世界の片隅に』は、クラウドファンディングによって成り立ちました。

「こんな映画があってくれたら」と思って作った作品を、同じように思って求めてくださる方たち。そんな多くの存在があって、私は映画を作り続けていられるのです。(談)

かたぶち・すなお ●アニメーション監督、脚本家。1960年大阪府生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。多くのテレビアニメーション番組やアニメーション映画の脚本・制作を経て監督への道を進む。代表作『この星の上に』『アリーテ姫』『マイマイ新子と千年の魔法』など。2016年公開の『この世界の片隅に』は国内外で70以上の賞を受賞。現在、最新作『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が全国公開中。
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