「動こう、今、心惹(ひ)かれることに」
小泉 今日子が語る仕事--4
仲間となら次へ行ける
苦し紛れでも扉をたたこう
ひたすら真っすぐ前だけを見て、吸収できる全てに欲張って仕事をしてきた私が、ふと将来の自分を考え始めたのは、「そろそろ折り返し点だな」という仲間たちの声を聞いた40歳の頃でした。彼らはそう思っていたのか。折り返すって何をすることだろうか。やがて私は、周囲の大人たちに育ててもらった恩返しに人を応援したいと、50歳間近で起業し、プロデュースの仕事を始めたのです。
会社では、舞台や音楽イベントなどエンターテインメントを中心に制作しています。「面白い人がいるよ」「こんな素敵な人を知っていますか」と、お伝えしたい企画を練り、仕事仲間と制作する裏方です。とてもやりがいのある仕事ですが、さすがに私たちにとっても昨年、今年とコロナの影響は大きく、思いがけない経験をしました。例えば昨年10月、プロデュース公演でお芝居などを3週間上演する予定でしたが、中止せざるを得ませんでした。
さてどうしよう。劇場にキャンセル料を支払って終わりにしようか。中止にしたからどうせ赤字だし、でも何もしないのは残念すぎるなと迷いました。そんな時にテレビでフランスの経済学者、ジャック・アタリさんの「コロナ後は利他的な社会になるべきだ」という内容の話を耳にして思いついたんです。確保していた劇場は公演場所を失った表現者に日替わりでいいから使ってもらおう、気持ちのいい赤字にしようって(笑)。
この提案に複数から「助かる!」と手が挙がり、私たちも企画を追加。子どもに向けた劇団の公演では客席を明るくし、赤ちゃんが泣いても、席を立っても大丈夫としました。子どもって、舞台に鬼が出てくると泣く子も、笑う子も、声を出して応援する子もいるんです。帰る時のお母さんの顔が本当にうれしそうでした。誰にとってもエンターテインメントは大切だと改めて感じたし、もしコロナがなかったらこんな体験はできなかった。状況が悪いからと何もやらなかったらシュンとして終わってしまうところでした。
世の中に風が吹いている
昨日まで当たり前だったことができなくなった。そこで私たち表現者は、今できることとして演劇や音楽をリモート配信する努力も続けています。「追い込まれたら変わらなきゃ」という風が吹き始めていると感じますね。今までの上下関係やルールといったものから解き放たれ、同じことを考えている横の仲間と一緒に前に出ていくという感覚でしょうか。楽しいと感じることや大切だと信じること、それが共通している人を探してみようと言いたいです。
誰もやっていないからむちゃかも知れない。そうためらう気持ちはもちろんあるけれど、自分がいいと思えば満身創痍(そうい)になっても走る。私も今、誰もいない場所であっても走っていきたいという思いが強いですね。行く先は草ぼうぼうで、痛い目に遭って手足があちこち傷だらけになるかも知れない。でも、とにかくうっすらと獣道ができれば、後ろからやって来る人たちの目印にはなるだろうなと。