「青臭く仕事の原点を問おう」
國松 孝次が語る仕事―4
本気の継続で、事は動く
資金と力が無いなら志だけが燃料です
警察庁を退官後に、私は自分のキャリアとは全く縁のない、NPO法人救急ヘリ病院ネットワークに籍を置きました。ここで感銘を受けたのは、ドクターヘリの普及に力を尽くす関係者の志の高さです。そして私自身にも、銃撃されて助けられた体験があったからこそ、救急医療のためならという思いがありました。
2007年には、私たちの思いが通じて「ドクターヘリ特別措置法(救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法)」が成立しました。
また、警察や消防署のヘリとは違って民間のヘリであるドクターヘリは、航空法上の扱いが異なっていたのですが、うちの副理事長たちがずっと粘り続け、13年に、ドクターヘリを他の公的ヘリと同等に扱う航空法の改正までこぎ着けた経緯があります。
それに対して報酬が出るわけではなく、世の中に称賛されるわけでもなく、ただ、必要だからという使命感でやり遂げたのですね。わずかな数の民間人が、必死になり、本気でその思いを継続して、国の制度を変えるところまでたどり着いたわけです。
私は、この諦めない本気の姿勢を大切に考えています。周囲が、そんなことは無理だよと言ったとしても、やり続けるかどうかは最後は自分の胸に聞くしかありません。私たちがドクターヘリの法的整備に尽力しても、何の権限も無いNPOの活動は正式な記録には残らないでしょう。しかし、結果が人々の役に立てばそれでいいのです。
多くの仕事は、目立たなくとも、本人が気づいていなくとも、実は誰の胸にも潜んでいる役立ちたいという思いによって支えられているのではないでしょうか。
正しいことに人は手を貸したい
ドクターヘリは今、全国38道府県で46機配備されていますが、理想は70機ほど。命を救われた事例や、その活躍を耳にしたら、きっとドクターヘリの普及を支持する人が増えるだろうと思っています。
これほど豊かになって、さあ次に大切なモノは何かと若い人たちは考えているでしょう。NPOのような社会事業を起こす人も多くなっていると聞きます。
私のNPO体験は12年間になりますが、決してラクではない活動でした。営利目的で運営してはいけないという原則がありますから、活動の財源はもっぱら寄付などに頼らなければ回っていきません。私も資金集めに苦労して、実に大変だなと気が重くなったことも一度や二度ではありませんでした。
それでも、救急の現場で懸命に働くドクターヘリの搭乗医師や看護師、そして地上スタッフの活躍は頼もしくてうれしい。それに、命を救われたという方々の手記や笑顔の写真を拝見すれば、縁の下にいる自分も報われる思いがします。
行き詰まってしまった時は、「誰のために、何のために」この仕事をしているのかと、青臭い書生論を折にふれて問うてください。あなたが目指す仕事の本質は、きっと正しさに通じるものであり、共感して手を貸してくれる人が必ず現れます。
青臭いと言われようと「本気で、続けること」。頑張って欲しいと思います。(談)