仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「今いる世界から抜け出そう」
山極 寿一が語る仕事--1

就職活動

働き方は岐路に立った

若者はスマホに何を感じるか

若い世代を理解したくて高校生や中学生と話すことも多いのですが、ある講演で意外な反応がありました。「スマホを使っている人は?」と聞くとほぼ全員が手を挙げる。そこで「スマホを捨てたいと思う人は?」と聞いてみると、結構な数の手が挙がったのです。僕はなぜこの質問をしたか。我々が何の疑いもなく日常に取り入れている科学技術は、一度利用し始めるとその便利さからなかなか抜けられなくなります。では、生まれた時からインターネットが身近で生活の中心にはスマホがあり、ゲームや仲間との会話を楽しんでいそうな高校生にとって、スマホはどんな存在なのか。それを直接問いかけてみたかったのです。
 
思ったより多かった挙手の背景ですが、僕は「かなりしんどくなっているんじゃないか」と推測しました。常にスマホで受信を確認する義務感があり、集団監視下に置かれたように、「お前何してる?」とメッセージが来たら返信しなくちゃと思う。面倒になってうそをついたら、それがばれないようにするプレッシャーもある。
 
個人がいつでも連絡を取れるのは、少し前の生活に比べたら大きな変化ですが、便利な半面、負担に感じている若者もいるでしょう。その漠然とした違和感は何なのか。僕は生物としての「ヒト」が、テクノロジーによるバーチャルなつながりに不安を感じているからだと考えています。だから、生活の中でのスマホ比重の大きさが気がかりではあります。

ただ、12歳から16歳ごろまでは身体の成長が加速する時期です。彼らは、異性でも同性でも仲間が自分をどう見ているかが非常に気になり、その仲間の承認が必要なのですね。それが生きる意味になるほどに。でも今は、新型コロナウイルスの影響で仲間との対面的なつき合いが制限される状況ですから、どうしようもなく苦しいんです。だからバーチャルでもいいからスマホでつながり、孤独にならないでいて欲しい。

人間に必要な三つの自由

コロナの影響で最も大変なことは、人間が生きる上での、社会を作る上での三つの自由を奪われたことだと思います。それは移動する自由、集まる自由、対話する自由です。対話だけは対面は無理でもオンラインで何とか保てていますが、対面での自由さを百%カバーできているわけではありません。我々は、一番重要な行動を抑制されてしまいました。

でも実は、この三つをもたらしてくれるものこそ仕事です。お金を得るだけではなく、移動し、人々が集まって一緒に働き、そして対話ができていることは生きがいなのに、それを謳歌(おうか)する環境を失ったということでしょう。リモートワークなどで稼ぐ手立てはあっても、人と働く楽しみやつながり方が奪われたのです。みんな、それにそろそろ気づき始めていますね。

テクノロジーの急激な進化とコロナが、いや応なく、働き方と人の幸せを探せと迫っているようですが、僕はこれから「遊動民の時代が来る」と思います。それは、いったん今の世界を抜け出して例えば別の地に住み、新しい価値やつながりを作る生き方。そんな未来に向かう考え方を次回に詳しくお伝えします。(談)

やまぎわ・じゅいち ●京都大学前総長。霊長類学者・人類学者、ゴリラ研究の世界的権威。1952年東京都生まれ。京大理学部卒業後、京大大学院理学研究科へ。理学博士(87年取得)。ルワンダ・カリソケ研究センター客員研究員、京大霊長類研究所助手などを経て京大大学院理学研究科教授。2020年9月までの6年間、京大総長を務める。著書『スマホを捨てたい子どもたち 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』ほか多数。
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