「迷っているなら、動く時です」
仲 暁子が語る仕事―2
わずかな体験で答えは出ない
「気まぐれ」には 直感が潜んでいる
新卒で就職した外資系の証券会社を2年ほどで辞め、母の住む北海道にこもって好きな漫画を描き応募しても、プロデビューには至らない。賞を取れるのは一握りの人だけ。自分には漫画の才能はなさそうだと分かり始めました。
しかし世の中には賞を逃しても、いい漫画はあるはずだ、それを見られるサイトがあったら面白いと、今度は、子どもの頃からかじっていたプログラミングを使って漫画投稿サイト「マガジン」を自作し、夢中になっていきました。はたから見たら、私のやってきたことは脈絡も何もありません、私自身にも分からないのですから(笑)。
そして偶然、IT業界の経営者が集まる大きなイベントを見つけます。プレゼンテーションもできると知って、「マガジン」を売り込むチャンスだと準備しますが、締め切りに間に合いませんでした。でも代わりに、人が足りないからと言われ通訳として採用。そのイベント会場で、フェイスブックのロゴ入りTシャツを着た若い男性に「私、フェイスブックに自分のサービスサイトの広告を出してるんですよ」と何げなく話しかけたら、何と日本法人の代表だった(笑)。こうして、ここに2度目の就職が決まりました。
私たちは、興味のまま気まぐれに行動することは避けるようにと教えられてきました。けれど、人生や仕事の経験が少ない若い人は、自分の仕事を判断する「ものさし」が圧倒的に足りない。極端な例を言えば、幼児に大きくなったら何になりたいかと聞くと、運転手さんとか花屋さんとか言いますよね。人は、それまでの体験が選択肢の全てになりがちです。視野の狭い価値観に基づいた選択肢から逆算して、視野の狭い今を生きるよりは、無目的に、流れるように目の前の選択肢を選んでいった方が、自分の狭い視野を超えた、実はずっと高い場所にたどり着けるのです。
動くのは早いほどいい 何回でもいい
仕事を始めると必ず突き当たるのがモチベーションの壁。20代の頃の私も、もっと仕事ができるようになりたい、意欲を持って取り組みたいとさんざん悩みました。けれど、自己啓発本を一生懸命読んで、その教えに従って未来の目標に日付を入れても、最初だけはやる気に満ちているのですが長くは続かない。
かなり真剣に3回ほど繰り返してみてやっと気が付きました。そう言えば新年の抱負も、トレーニングジムも続く人は少ない。つまり「この目標をやるぞ」と決定した時だけ心地いいのであって、そこに「やってみたくてたまらない」という本音がないのだと。
大切なのは、今いる場所で何とか自分を鼓舞するのではなく、「もうそこまででいいよ」と言われても、また次々と考えたり、工夫したりする自分の内にあるモチベーションを探すことではないでしょうか。仕事は同じでも、視点を変えると驚くほどやる気になるかも知れない。
仕事は本当に数多くあり、人が面倒だと感じる内容が、自分にとっては面白くて仕方がないプロセスだったりします。どの仕事が重要だとか、新しいとか、給料がいいとかといった周囲の雑音は振り切っていい。だってそれは、他人の人生ではなく、あなたの人生なのだから。(談)
出典:2015年2月8日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面