「『何とかしたい』課題に粘る」
中村 有沙が語る仕事--3
未経験だから理想を追う
作業着をなめるな、と説かれても
新卒で、水道工事を手がけるベンチャー企業に就職。営業職で鍛えられた4年後、人事部が必要と社長に提案して、後輩と私2人だけの部署が立ち上がりました。苦戦したのは若い技術職の採用です。何とか若々しい社のイメージを伝えたいと思いました。そして私は、営業職時代に作業着のまま街で大学の同級生に出会い、会社勤めのおしゃれな服装の彼女を前に、自分の作業着姿が恥ずかしくて気後れしたことを思い出しました。
仕事には誇りを持っているのにこの気持ちは何なのだろう。それなら、作業着をスーツのようにカッコ良くリニューアルしたらどうか。服作りなど何も知らないまま、途中のプロセスよりも成功した場面だけはくっきりと思い浮かぶのです(笑)。これが未経験者の強みかも知れませんね。ところが、スーツと作業着はアパレル業界では全くの別分野で、迷い込んできた素人丸出しの私たちに、「作業着をなめてるのか」「スーツで現場仕事なんて、まともに動けないよ」と強い言葉が飛んでくるばかりでした。
目指したのはこんな一着です。見た目はオフィスでも違和感のないスッキリ細身のダークスーツ。薄手で軽く体にフィットし、ストレッチが利いていてどんな動きにもついてくる。水や汚れに強く洗濯機で洗えて3、4時間で乾き、ノーアイロンで着られる。生地も上質感があるといい。理想の一着ですからまずは望み放題。アパレル業界の方が「これ本気ですか?」という表情だったことが印象に残っています。
うちの社員向けだからと、制約なしに取り組ませてもらって完成まで約2年。採用のためのイメージ戦略としても好評で、社員が着用し始めると、やがて同業他社さんや水道工事の取引先から「あのスーツのような作業着、うちにも欲しいのですが」という声が次第に増えていきました。新たな変化が起きてきたのです。
「買えますか」に応え事業化
当社員がスーツに見える作業着でお伺いすると、「その服で工事するの?」といった驚きが広がっていったようです。ここまで関心が高いのなら、新規事業化して生産しようということになり、「中村さんがアイデアを思いついたのだから、やってみたら」と思いがけず新会社の代表に就任することになりました。とすれば売る責任も生まれます。従来の作業着に比べると価格は3倍ほどですから、優れた特長を知ってもらうことに全力を注ぎました。
ご注文を受けて驚いたのは、その職種の多様さです。きちんとして見えて意外に行動量が多いというレストランや結婚式場、運送や販売業務、そして接客の合間に洗車などもする高級車のディーラーなどなど、およそ200種以上。ずっと以前からスーツ姿でトラクターを運転して畑を耕していた若き農業家も。また、ビリヤードの選手からは「競技にはドレスコード(服装規定)があるのですが、動きやすさが必須なので」とご依頼を頂いた。うれしかったです。
まだ存在していなくても、「きっと待たれている」と信じるものを作ること。素人の夢だと笑われても、その壁を越えようと行動すること。それがベンチャー精神だと思います。(談)