「『何とかしたい』課題に粘る」
中村 有沙が語る仕事--2
「カッコいい」は原動力
作業着は街で気後れする?
人見知りで口べたな自分を変えたくて、新卒で営業職を目指し、水道工事を手がけるベンチャー企業に就職。現場で先輩に鍛えられ3年かかってようやく営業トップに。そして入社4年後、社内の従業員が七、八十人に増えた頃、採用・教育・評価を総合的に見る「人事部」の必要性を社長に提案し、私と後輩社員2人だけの部署が立ち上がりました。
全くの人事業務初心者ですが、任されたからには結果を出したい。関連した本はほとんど読みあさり、社外の人事部の方からも教えを受け、理解が深まって実践に反映できる日々がうれしかったですね。
やがて社内研修などは軌道に乗り始めましたが、思うようにいかないのは若手技術職の採用でした。男性比率が多く平均年齢が高めの建築業界は、若い人にとって苦手意識があるのかも知れない。そう考えて、社のイメージ写真を若い男女社員が和気あいあいと笑い合うものに変えたら、応募状況が圧倒的に良くなった。ビジュアルによって受け手の印象が変わる手応えはあったのです。でも、順調な採用までにはなかなか届きませんでした。
会社の内装やビルを新しくしたらイメージも変わりそうなどと、とんでもない投資案も頭をよぎったり(笑)。そんな試行錯誤をするある日、ふと入社2年目の頃の体験がよみがえってきました。まだ先輩について現場で学んでいた時、私は作業着で車に乗りコンビニに寄ったりすることもあったのですが、そこで大学時代の友人にバッタリ出会いました。可愛いきれいな服装をした「キラキラ丸の内OL」の彼女を前に、私は自分の作業着姿を「恥ずかしいな」と思ってしまったのです。仕事には誇りを持っていたし、先輩たちも大好きで楽しい毎日なのに、なぜ私はこんな感覚を持つんだろうか。この問いに答えられないまま、ずっとその気持ちをのみ込んできました。
そして採用の難題を抱える中で、「日常に溶け込む作業着ならイメージを変えられるかも」と、あの時の自分へのヒントが浮かび上がったのです。
そのままデートへ行けるほどに
作業着をカッコ良くして、採用対象の人たちにも若々しい社風を伝えたい。それがプロジェクトのスタートラインでした。ただ、今度もまたアイデアが先に立った未経験の発案です。そもそも若い人にとって着たくなる作業着って何なのだろう。ストリート系か、シルエットのいいカーゴパンツかなどと案も続々と出ました。しかし、お客さまのご自宅に伺う場合を考えたらカジュアル過ぎるのは避けたい。こうして「スーツに見えてデートにも行ける機能的な作業着」へと絞り込んでいきました。
当初は人事部の採用対策、社員のための作業着開発です。新しいことをゼロから立ち上げる楽しさと、いくら時間や経費がかかってもいいから、とことん自分たちが欲しい物を作れる環境。完成には2年もかかりました。服作り素人の私たちは、アパレルの世界で一般服と作業着は全く別業態とも知らず、カッコ良く、動き回れるスーツ作業着に向け喜々として進んだのです。これこそがベンチャー企業の面白さ。私はこういう仕事がしたかったのですね。(談)