仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「新しい価値の根っこをつかもう」
中山 亮太郎が語る仕事--3

就職活動

目をそらさず本質を追う

未知のバッターボックスに立つ

自分の会社を作りたいと社内で意思表示を続け、20代半ばにベトナムでの投資事業を任されました。初めてのことばかりで僕には苦しい選択でしたが、乗り越えて力をつけたかった。やがて新たなインターネット産業への投資で成果を出せたのですが、ある日、この地で売られている日本製の新商品がゼロに近いと気がつきました。スマホやパソコン、家電製品など他国ブランドが並び、若い人は月収の数倍の価格でも借金をしてアメリカ製のスマホを買っているのです。
 人の選択肢が多様化し、他人とはかぶらないユニークな物が欲しい時代に、大量生産が主流のような日本製品は需要に応えていないのではないか。そんな考えを持ち始めた頃、本社からクラウドファンディングの事業を立ち上げるから、その子会社の社長をやるかと声がかかったのです。何かひらめくものがあり帰国しました。
 2013年当時、クラウドファンディングという言葉はメディアで脚光を浴び始めていました。ただ、新しい資金調達の仕組みらしいというくらいの知識しか自分にはなく、社内でも、とにかく箱だけ作ってバッターボックスに立とうというスタートです。もしこれがうまくいき、技術やアイデアがあるなら小資本で魅力ある製品が作れると、僕の期待値は大きくなっていきました。でもここでつまずきます。すでに日本でのクラウドファンディングのイメージは、チャリティーの支援金や寄付金を集める仕組みとして根づいていたのです。
 事業の開始では苦戦しました。「御社の新製品プランを作り、その資金をクラウドファンディングで調達しましょう」。そう提案しに僕たちは数百社を超える企業へ営業に出向きましたがほぼ全滅。「新商品を作るのに誰かに寄付してもらうことなどできない」。極端に言えばそういう捉え方でした。売れるものは作りたい、資金も欲しい。でもマニアックな商品では大量生産ルートに乗せられないし、購入してくれるユーザーを本当に探せるのかとも言われました。クラウドファンディングは画期的な仕組みですが、経済サイクルには食い込めないままでした。

寄付感を突き抜けた「応援購入」

低迷が長く続き、資金が苦しくなっても事業としてしっくりこない。「これだ!」というバットの芯を食ったような当たりを感じない。どこが間違っているのだろうか。そんな空回りする僕に大きな気づきをもたらしたのは、当時契約をしてくれた時計開発メーカーの事業家でした。「まだデザインや原型しかない段階なのに、それが欲しいと購入してくれる人がいるということが証明できれば、販路開拓もできるし僕たちの自信にもなる。テストマーケティングとして大きな意味がある」と。
 作る前に売れる情報を提供し、先行して買ってもらえるメリットこそ僕たちのサービスの価値なんだ。目からウロコが落ちました。ユーザーから見れば「こんなにいい商品なら欲しい。完成を応援したい」ということです。核心がつかめなかった本質的な価値は「人の『買うという力』」のもとにあると確信することができたのです。そして、その後「応援購入」という独自の言葉で位置づけることができました。カッコつけず、背伸びせず、価値の本質を伝える日本語で。実体経済の中に居場所を持てたと思います。(談)

なかやま・りょうたろう ●(株)マクアケ代表取締役社長。1982年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。2006年に(株)サイバーエージェント入社。10年から13年までベトナムに赴任、現地のネット系スタートアップへの投資を手がける。帰国後、現在の(株)マクアケを設立、代表取締役社長に就任。同年“アタラシイものや体験の応援購入サービス”「Makuake(マクアケ)」を開始。
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