仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「自分に根差した力を信じる」
根岸 洋明が語る仕事--4

就職活動

あなたの持ち場を照らせ

社員の一瞬のサインを見逃さない

自然染料インディゴを生かし、全てを「本物」の素材と技術とプロセスで作り上げた価格5万円前後のデニム。その素晴らしさを分かってもらおうとお客さんに寄り添い、社員と共に誠実に1年、2年と時間をかけた販売。僕たちはそんな独自のやり方でファンを獲得し、マーケットを拡大していくことができました。
 
その中で僕が心したのは、デニムを育てるのと同じように丁寧に社員を育てていくことでした。就職すれば、みんな会社に貢献して認められたいと思うでしょう。ただ、本人がそう考えて努力した行動や提案が空回りすることもあります。それは、僕自身も子どもの頃から周囲と歯車が合わなかった体験があるから分かるのですが、喜んでもらおう、気づいて欲しいといった気持ちでやった行いがうまくいかない。それが続くと悔しさを抱えたままになるんです。
 
例えば、子どもが「しまった」と思って「お母さん、ごめん!」と謝ったのに、母親が「何? それより早く寝なさい」と受け流してしまったら寂しい。僕も人間だから間違いをたくさんしますが、そういう時に人はやっぱり言葉や行動で何かサインを出している。誰でも見逃された経験があるだろうからこそ、自分は社員の一瞬のサインを見逃すまいと、誰かがインスタグラムに写真を上げてもショートメールを送って来ても、その場で10秒以内に返します、夜中でも。
 
叱る時はかなり強く叱りますが、その後は長い時間をかけて分かってもらう。それは、信頼と愛情を一人ひとりに伝えるためです。「今の若い子はダメだ」と苦々しく言う大人も少なくないですが、若くても義で生きる人がいる。水をやり、日に当て、大変でも時間と手間をかけて一歩一歩育てたい。僕は10年を経た今でも、社のオーナーであるジェイソン・デンハムとほぼ毎日3回くらいは話します。意見が食い違って大げんかもしますが、それでも彼が部下を愛しているという気持ちは分かる。「ちゃんと君を見ているよ」と伝えることが仕事の根幹だと思います。

慕ってくれる人に誠実であれ

僕は、売り上げをどこまでも追い続けるつもりはありません。自分が何者でもないと分かっているので、無理な倍々ゲームで数字を上げようとすれば、今までみんなと積み上げてきた幸せな範囲を守れないと思うからです。それよりも、本物を作る魅力的なブランドとして生き残っていきたい。
 
広大なマーケットをナイター照明で明るくするようなスケールの企業ではなく、自分たちを慕ってくれる人を照らすテーブルライトのような存在というイメージです。リーダーが作り上げた持ち場に大切な顔がそろい、進む先を精いっぱい考えて動く。そこに仕事の力が湧いてくる。日本人は優しいし、手先が器用だし、まだまだ優れた文化や技術を持っています。職種は違っても、若い社員が育ちリーダーとして、思いを同じくする皆がテーブルライトに集うような企業が生まれる可能性は大きいでしょう。
 
大切なのは、何か選択をする時に情報やデータなどに流されないこと。まず、今日まで自分の中に育まれてきた価値観を信じてください。(談)

ねぎし・ひろあき ●(株)デンハム・ジャパン代表取締役社長/CEO(最高経営責任者)。1972年生まれ。大学卒業後、ファッションを始め様々な職種に携わり、2009年グラムール セールス(当時)の立ち上げメンバーとしてCOO(最高執行責任者)を務める。11年デンハム ザ ジーンメーカー ジャパン(現デンハム・ジャパン)代表取締役社長に就任、14年からデンハム本国(オランダ)のブランドディレクターも兼務。
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