「自分に根差した力を信じる」
根岸 洋明が語る仕事--5
右に左に、足を踏み出せ
はみ出してフィールドを広げよ
僕の人生は、幼い頃からずっと「自分がするべきことは何か?」を探し求めてきたように思います。体が大きくて正義感が強かったので、思わずいじめっ子をたたいたりしたこともあり、両親はハラハラしていたでしょう。それでも諦めることなく、僕を諭し見守ってくれた。祖父もやはりやんちゃをする孫を静かに応援してくれていました。48歳になった今も、「自分がいいと思ったらやってごらん」という家族のまなざしを感じますね。
大学を卒業後にファッションメーカーに就職しましたが、ほどなくオーストラリアへ渡り、様々な仕事をしながら10年間暮らしました。そこで僕は、自分がどんな環境でも自身で考えて臨機応変に対応する力があることに気づきます。「いいと思ったらやってみる」「臨機応変に知恵を絞り精いっぱい動く」。この2本の軸が僕を自分の居場所に連れて来てくれたのだと思っています。
10年前に現在経営するデニムブランド「デンハム」のオーナー、ジェイソン・デンハムに出会った時も、直感でついていくと即決しました。日本で1本5万円前後のデニムを売る僕の戦略は、当時、売れるわけがないと日本の業界関係者からは非難の嵐でしたけれど、その価値を分かってもらえるまで1年、2年と工夫の限りを尽くしました。売り上げは小さくても決して赤字は出さない戦略を練り、成長を目指したのです。この10年、オーナーからブランドポジショニングや売り上げで文句を言われたことは一度もありません。
これは僕の生き方でもあるのですが、今の枠をはみ出して思いっきり横に一歩を踏み出してみるんです。右サイドに行ったら、今度は反対側の左サイドに行く。安定路線内にいるのにその陣地から動いたらどうなるか。やってみれば勘がさえてきます。要はそれがバランス感覚の習得です。踏む前はやはり怖い。社員から「そこまで踏んで大丈夫ですか?」と言われることもありますが、きちんと説明して踏んでしまいます。フィールドを広げたいからです。
あなたの胸の奥を追い求めて
今、誰もが前だけしか見ないで進んでいるように僕は感じています。例えば経営者の中には、ネットの本質を知らないのに、周囲の空気から「ネット比率を上げよう」と号令する人がいそうです。なぜ、自分の事業にとってそれが重要なのか、しっかり状況をつかんでいるでしょうか。情報収集能力がないと、間違ったインフォメーションをどんどん集めて誤った一本道へ突き進んでしまいませんか。情報とは、発表されたデータなどではなく、本人が動いて手にした実感なのではないでしょうか。
同じことを僕は、多くの働く人にも伝えたい。あなたのやりたいことが今の時点で周囲から賛成を得られなくても、「やってみよう」という思いが人生を牽引(けんいん)するものですよね。外からの常識は、違和感として僕もずっと経験してきました。でも、常識とはあまりにもアバウトですから、一人ひとりの思いと誤差があるのは当たり前です。気にすることなく、あなたの胸にある思いを追い求めてください。(談)