仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「自分の本気を探し続けよう」
錦織 一清が語る仕事--3

就職活動

さらけ出せれば強い

僕は頭で考えがちだった

アイドルグループ「少年隊」は3人組ですが、個性に合わせた個人での活動として、僕の場合はミュージカルや舞台などの分野で様々な仕事が増えていきました。中でも劇作家・演出家のつかこうへいさんの舞台「蒲田行進曲」で主演にと声をかけて頂いてから、僕の「うまくなきゃいけない」という思い込みが大きく変化しました。なぜならそれは、「役作りなんていらない。俺もお客さんも見たいのはお前がどんな人間かだ」という、つかさんの指南があったからでした。
 役柄を頭で分かろうとするな、役の人物が自分だったらどう生きるか。そう問われていたわけですが、始めの頃は何がなんだか分かりません。つかさんは僕のいない所でプロデューサーに、「あいつは破綻(はたん)がねえんだよな」と頭を抱えていたらしい。でもやがて僕は、例えば「何言ってやがるんだ!」というセリフなら、リミッターを超えて本気で怒鳴ることを求められていると気づきました。「芝居ってこういうものだ」という生半可な考えを頭から追い出す覚悟が必要だったのです。
 僕にはもう一人、とても尊敬する方がいます。中学生の頃からずっとファンであるロックミュージシャンの矢沢永吉さん。今日まで日本武道館での単独コンサートを百数十回やり続けられる、その魅力はどこにあるのか。僕なりに突き詰めて考えると、舞台の上で人生を見せてくれるからだと思うんですね。10代で上京して音楽で大成功してから、自分の会社が潰れるほどの金額を仲間に盗まれた。かなりの年齢でどん底になっても、それを乗り越えてきた。そして隠し事は一切せずに苦しかったことをさらけ出してこられた。
 今もファンは熱狂的で、僕のように年齢を重ねても本当に熱い目で生身の「俺たちの永ちゃん」を見ている。矢沢さんが、芸能界やマスコミなどのフィルターを通さず一対一の気持ちでファンに寄り添っているからだと感じます。自分で曲を作り、歌い、よかったら見に来てくれ、嫌いなら構わないという、ご機嫌伺いなんかしない潔さ。僕は、つかさんと矢沢さんからその魂をもらったと思います。

本来の人間性にふたをするな

 僕は現在、演出の仕事を主に手がけていますが、役者を目指す人の心の中には自分そのものを見られたくないという思いが潜んでいると感じています。なぜなら、演じることで本来の己にふたをできるから。でも、本当は役の後ろに隠れず、それを手がかりに怒りや優しさを全部自分の中からほじくり出すことこそ、人間を表現する役者の仕事だと思う。
 もちろん人のことは言えません。僕も30代半ばでつかさんに出会って、自分自身をありのままに解き放つ大切さにようやく気づいたのです。だから伝えたい。表現のテクニックやディテールをどこからか仕入れてくる必要はありません。そこに自分がいればいいのです。
 それは役者の仕事に限らないかも知れない。先に進む時には、誰かのようになりたいとか、世間から評価される道を選ぶとか、外に目を奪われやすいでしょう。迷うのは当たり前だと思う。けれど「本当にいいのか」と自分に問いかけてみて欲しいです。(談)

にしきおり・かずきよ ●シンガー、俳優、舞台演出家。1965年生まれ、東京都出身。12歳で(株)ジャニーズ事務所に所属後、アイドルグループ「少年隊」として一世を風靡(ふうび)。99年つかこうへい演出「蒲田行進曲」への出演などを機に舞台演出にも携わる。2020年末に事務所から独立。ソロシングル「Cafe Uncle Cinnamon」が発売中。演出する舞台「フランケンシュタイン-cry for the moon-」が東京では22年1月7日(金)~16日(日)に開催予定。
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