「失意からでも仕事の芽は育つ」
佐川 友彦が語る仕事--3
小さな改善から動き出せ
課題はバラバラにし尽くすべし
環境ビジネスにも力を注ぐ外資系化学メーカーに就職し、新卒でプロジェクトを任されたものの成果を出せないまま、体調を崩して退職。回復後、創業期のITベンチャー企業に籍を置きましたが、片道2時間強の通勤に体力が続かず、夢半ばで退く決心をしました。この2社から得た仕事の学びは実に大きなものでした。やがて私は宇都宮市へ移住し、栃木県の阿部梨園のインターンから再スタートしました。
阿部梨園は大玉の梨作りのために様々な努力を続け、県でも有数の業績を上げていました。ただ、先の事業計画を立てることや、販売、マーケティングなど全体の管理には手が回りません。私は「経営や業務を根本から見直しましょう」と提案し、目標として4カ月のインターン期間中に100件の改善を自分に課したのです。ただ、そうは言っても当初の私にはまだ経験がなく、考えて一番最初に取りかかったのは、休憩室兼事務所の掃除。その頃作った実行リストには「説明書/保証書の整理」「ゴミの分別」「プリンターの無線LAN化」などなど、業務の分類もなくやみくもに改善点を挙げていましたね。
担当は私一人です。それでも直販店頭の陳列やサービスを見直すといった改善がスタッフに理解され、それぞれが知恵を出してくれるといったうれしい変化が起きてきたのです。4カ月で改善達成は73件でしたが、私はこのやり方に可能性を感じました。農業にはマニュアルがほとんどなく、経営者は「やらなきゃと言っても、右に行くのか左に行くのか」と判断する道しるべがありません。山積する課題を一つひとつに小さくバラバラにして、できることを見えるようにする必要があるのです。
阿部梨園にフルタイムで4年ほど勤務しましたが、その間に私自身が勉強しながら手がけた小さな改善は、多くの農家が苦手とする経営管理や企画、経理会計、人事労務、さらにブランディングやデザイン、販売促進や広報、それにスタッフのパソコンタイピング練習といったものまで、およそ思いつく限り約500件に上りました。
目の前に集中して乗り越える
改善例のうち300件は、クラウドファンディングによって阿部梨園のサイトを開設し「阿部梨園の知恵袋」として公開しました。困っている生産者さんが私たちの実例を見て、まずできそうなことから一歩を踏み出してもらえたらと考えたからです。動けないまま立ち止まっているのは、もどかしく苦しいことですから。
その苦しさは、二つの企業を退職して自分の価値や夢を見失った私も体験しました。社会に貢献する仕事をしたいとマクロ的な意識や使命感を持って頑張りましたが、力尽きて途方に暮れてしまったのです。そんな時期にゆっくりと伴走してくれる方々に助けられ、私は今の自分が背伸びせずできることに価値を見いだそうと思いました。まずは目の前の仕事で周りの人を幸せにしようと。
仕事をしていると、自分の能力を地道に磨くことは回り道や無駄に感じるかも知れない。でもそれは錯覚だと思います。今の現場を見定め、自分が提供できるミクロな価値を見極めてみてください。(談)