「失意からでも仕事の芽は育つ」
佐川 友彦が語る仕事--4
誰にでも別の潜在力がある
農業は若い人の腕試しになる
二つの企業を体調不良で退職してから、少し時間を経て栃木県の阿部梨園で再スタートを切りました。ここは県でも有数の業績を上げていますが、ほとんどの農家さんがそうであるように経営など全体の管理には手が回らない状況でした。私は経営や業務の改善を提案し、小さなことから始めて300件に達したのを機に、クラウドファンディングによってサイトを開設。改善ノウハウを「阿部梨園の知恵袋」として無料公開しました。困っている他の農業者さんにも、私たちの実例を見て一歩踏み出してもらえたらという思いからでした。
このサイトが反響を呼び、農業者さんを始め、様々な業界の企業や、農業を学ぶ若いグループ、自治体、そして新聞や雑誌などのメディアまで共感してくださる方が増えていきました。梨園という現場で毎日悪戦苦闘し、迷いながら作った農家の経営改善への道しるべが、多くの働く人に届いたことは何よりうれしかった。それに加えて、自信のないままに経験したこともないトライアルを続け、それが私の新たな仕事として形になったという実感がありました。
農業は昔から伝承されてきた職種ですが、手つかずの課題も少なくありません。だから、逆に考えれば変わっていける可能性が大きい。これから若い人が事業として腕試ししやすい場ではないでしょうか。その現場にいる人が自身で課題解決できるように、私は農業者さんへ向けた社会人教育に携わっています。農業界で一番の先生になり、一緒に皆さんと前へ進んでいくことが今のビジョンです。
どんな仕事を選んでいくか。また、どういう将来を見据えて自分の人生を生きるか。私は追い詰められるまで本質が見えませんでした。社会的に評価され、自分の株を上げるための自己啓発や競争にこだわるのもごく普通です。ただ、私はプライドを捨て、裏方で人の役に立てる仕事ができて本当にラクになりました。幸せに楽しく働くための正解は、自分の中に潜む本音を認めることから始まるのだと感じます。
不確実さも自分の糧に
望んでもいないのに、安定していた勤務先を失うことが珍しくない時代です。そうなって初めて、自分がいかに会社を頼りにし依存していたか、私も思い知りました。バンジージャンプで飛んで足場がなくなった時のような身の危険を感じ、恐怖心が襲ってきます。ただそのお陰で初めて、自分の判断で自分の人生を決めていかなくてはならないのだと覚悟が決まりました。
誰もが少なからず持っている依存心を捨てる方法は、新しいチャレンジ要素を人生に取り込み、不確実さを糧にすることではないでしょうか。痛手を負うかも知れない、あるいは後戻りできない可能性もある。そのくらいの危機感を我が身に与え、生存本能やサバイバル力を強めて自身の古い部分を整理し、捨て去って、新陳代謝を続けていくのです。
私たちにはきっと、まだまだ眠っている別の力があるはずです。身動きが取れないと感じたら、誰かの力を借りる、仲間を探す、そして学ぶ。業界を超えて横串を通すような知見もあります。そうやってあなたらしい次の芽を育ててください。(談)