仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「手渡されたチャンスを糧に」
齊藤 太一が語る仕事--4

就職活動

実現したい未来を定める

社会の希望だから、応援される

東京で花を扱う会社に勤務し、豪華なフラワーアレンジメントを夢中で手掛けた20代。創作的でやりがいはありました。でも一方で、これからの時代には「いつも植物と生きる暮らし」が本当の豊かさだと考えてきました。だから社内に、緑の植物に取り組むグリーンの部署も築き軌道に乗せていました。そして8年ほど勤務した頃、思い切って社長に提案したのです。「自然の大切さが感じられる植物を、これからビジネスの主軸にしませんか」と。

社長の答えは「うちとしてはビジネス転換はできない。君が部署ごと独立してはどうか」でした。事業譲渡の買い取り価格は2億円。独立後の支援はする、分割払いでいい、そしてお客さんも引き継いでいって構わない、もちろんスタッフも。独立するなら一人でポーンと飛び出すつもりだった僕は、その提案にものすごく動揺しました。当時28歳の勤め人です。2億円という金額と、スタッフたちの給与保証というプレッシャーはあまりにも大きかった。

それでもやろうと決心した理由は二つです。一つは、植物と人とを切り離してはならないという思い。二つ目は、僕のお客さんが強く応援してくれたことでした。その人たちは、若造の僕が事あるごとに「未来に緑を残すんだ」と語るアイデアや提案を心に留め置いてくれていたんです。

そして慌ただしく起業し、当時の事業メンバーと共に会社はスタート。でも、たちまち資金繰りに困りました。仕事は今頂けるが、完成から入金までには何カ月かのブランクがありますよね。つまりすぐにお金は入ってこない。経営の経験もない僕の窮地を見て、あるお客さんが「当面いくら必要なんだ」と助け舟を出してくれました。ドラマのようですが、その方が僕のために、新しく自分の家を買ってこう言うんです。「いつかここに良い庭を造ってくれ。必要なお金は明日振り込む」と。申し訳ないと葛藤する中、「お前の自然への思いを信じているから」という応援に甘えました。そのほかたくさんの方々にも助けてもらいました。

未来に大切な仕事は何か

繁盛している勤務会社から、いきなり明日をも知れない独立起業した会社に移されたスタッフには申し訳ない気持ちがありました。大体にわか社長の目標は「未来を植物で豊かに」というあまりにも漠然としたものなんです。さらに「植物が地球を救う」なんてことも言っている。小学生の作文じゃなくて、この都会でのビジネスですよ、大丈夫ですかって(笑)。

その目標は、細やかに因数分解していくと、例えば窓辺のハーブの一葉を料理にといった暮らしの楽しみに近い。僕のこんな言動に落胆して去る社員も少なくありませんでした。しかし、創業から9年もついてきてくれている仲間たちもいます。グリーンで豊かにという思いを彼らも持っていて、世の中に必要な仕事だと信じていたそうです。

世界は今「デジタル」と共に加速している。でも自然の一部である人間は、現在も花や樹木に自分の生命を重ねたり、風や水の流れに安らいだりしますよね。あなたが仕事を考える時、そんな「ナチュラル」な分野もあることを忘れないでください。(談)

さいとう・たいち ●(株)DAISHIZEN代表取締役、造園家、グリーンコーディネーター。1983年岩手県生まれ。高校在学中の15歳から園芸店での植物販売や造園を始め、さらに独学で植物学や庭造りなど多くを学ぶ。19歳で上京、南青山の生花販売会社に勤務。インドアグリーンやランドスケープデザインまで手掛けるプロとなる。2011年に会社設立。都心に広がる“緑の商業スペース”「SOLSO PARK」を始め、教育、農業、都市デザインなど多彩な分野のプロジェクトを手掛ける。
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