「やりきって次の答えを見つけよ」
白石 和彌が語る仕事--4
映画の灯を消したくない
倫理観を超えるのが映画の快感
僕の監督デビュー作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』は青春物語で、公開は2010年。それまで一緒に仕事をしてきた仲間たちが、監督宣言をした僕に力を貸してくれました。しかし、すぐに次の映画を撮れるわけもなく、妻が仕事を持ち僕は娘の世話をする30代半ばの日々でした。ある日、デビュー作を見てくれたプロデューサーに声をかけられ、2作目『凶悪』で幸運にも優秀監督賞をもらったのです。実際の殺人事件を基にした作品で暴力シーンも撮り、こうして僕は社会に潜む問題を表現したいのだと確信しました。
やがて『日本で一番悪い奴ら』『彼女がその名を知らない鳥たち』『孤狼の血』など何本もの映画を撮りました。最新作は『孤狼の血 LEVEL2』。警察、暴力団組織、マスコミの人間が自分の追い求める正義や復讐(ふくしゅう)に向けて突き進んでいく物語です。その物語の激しさゆえに、一般社会や人がそれぞれに持つ倫理観を超えるような生き方を描きましたが、そこまでやるのかという瞬間に常識の縛りから解き放たれ、観客は快感と面白さを感じるのだと思います。
僕は他の作品でも法を犯す人間や、ギャンブルにのめり込んでしまう男などを描いています。そうやって生きる人たちが何を考え、どういう状況でどんな選択をしていくのかを掘り下げていくんですね。例えば午前中に人を殺した男が、午後には道で立ち往生している老婆を助ける。それが言葉にはできない人間の多面性じゃないだろうか。一側面だけを見て善悪を決めつけるのではなく、多面性をどう見せるかが映画かなと思います。
作品制作の要は社会への問題意識をいかに持つか、でしかありません。物語のフォーマットはだいたい起承転結で出来上がっていますが、オリジナリティーというものは作り手自身の視点からしか生まれてこない。大勢の人が見ている風景に疑問を持ち、視座を変えて物事を見てみる。そこで自分が感じる違和感はいったい何なのか。それを捉え立ち位置をはっきりさせることがモチベーションになるのです。
若い才能を育てなければ
映画制作は、どの持ち場も本気で一生をかけていい職業です。美術さん、照明さん、録音さん、衣装さんなどなど、みんなが生涯をかけて技術を高め、芸術的な分野に携わる。本当に究極の仕事じゃないかと思いますね。監督にはなれないと思っていた僕が今まで作品を撮れてきたのは、スタッフやキャストも含めたプロたちの力で育ててもらったからなんです。
これから日本のドラマ・映画には配信プラットフォームなど外資の力も入って制作していく時代になりますが、それによって映画界や劇場などが立ち行かなくなる可能性も大きいでしょう。加えて外資の制作資金が来るからといって、いきなり新人監督がドラマや映画を撮れるかといったら撮れないわけで、若い才能を育てるには作品を上映できるミニシアターの文化が必要です。
映画人を目指す若い人のためにも、労働環境や教育の場も含めて僕らは意識的に助け合わねばと思います。なぜなら映画は人間に欠かせないものだから。(談)