「イノベーションを担おう」
田川 欣哉が語る仕事--4
変革の助っ人になる
ビジョナリーと共に変化を起こす
インターネットによって急速なデジタルシフトが起きてから、ビジネスにはデザインが重要だと考えられるようになりました。それは商品選びや購入が手軽になったことで、個々人に向けたデザインの役割も大きくなってきたからです。商品の価値を決めることが一人ひとりに委ねられ、その市場は世界レベルになりました。
この大きな変革の中で成功するイノベーション(新機軸)には、「なぜこれをやるべきなのか」というビジョンが宿っていると感じます。そんな変化を起こすキーパーソンには観察力の高い人が多い。例えば、ネット上でフリーマーケットに参加できるアプリ「メルカリ」を創業した山田進太郎氏もその一人でしょう。彼は世界一周をしていた時にアフリカ諸国の貧困を突きつけられたと言います。日本では多くのモノが捨てられているのに、アフリカではモノが不足している。「なぜこんなに、モノがある世界とない世界が分断しているのか」
そして「どうやったらこの課題を解決できるのか」。そのビジョンの実現を考え始め、それがメルカリの起点になっているのですね。僕はメルカリ社内にデザイン組織を作るためのサポートをしていますが、彼らと仕事をしていると、このような使命に近いものを常に感じます。
そういうビジョンを持つ変革者たちと一緒に仕事をして目覚ましい変化を起こしていく、そのための総合力とはどういうものなのか。僕はその力を、ビジネス(B)、テクノロジー(T)、クリエーティビティー(つまりデザイン/C)の三つの組み合わせである「BTC」という考え方で捉えています。文系・理系・芸術系が高いレベルで融合したチームということですが、それがあることで、リーダーの目指す革新を大きく前進させることができるのです。
これからはBTC型人材が必要だ
ビジネス、テクノロジー、クリエーティビティーを同時に扱えるBTC型のチームや人材が育っていくこと。それが日本のイノベーションを支える原動力になると僕は考えています。
様々なプロジェクトを経験し、英国の王立芸術大学で先端のイノベーション教育に従事した経験も経て、変化を起こすイノベーターの育て方について、僕はある程度の方法論を手にしてきました。そのカギは分野をまたいで仕事をするBTC型人材、つまり「越境人材」にあります。その教育や実践を日本でも広めていきたい。もちろん全員がそれを目指すということではないのですが、変化を起こす側で仕事に携わる人材の数は現状の10倍以上は必要なのではないかと思います。
このような話をすると、一つの分野の習得でも難しいのに複数が必要と思うと気が遠くなるという方もいます。でも、ビジネスパーソンやエンジニアの皆さんがデザインの知識や思考を身につける方法論はあります。また、よく先天的な才能だと勘違いされる、いわゆるデザインのセンスもトレーニングで磨くことができます。
モノ作りの技術は、まだまだ世界でも強い日本。そこにデザインの翼をつけて、このすさまじい市場変化の時代を生き抜いていきたい。そのイノベーションを担う道があると知っていてください。(談)