「目の前の壁に逃げずに向き合え」
玉塚 元一が語る仕事―2
苦手分野の克服は、学び切る
自分を見つめ、徹底的に勉強し直す
新卒からガラスメーカーの生産現場で働き、27歳からはシンガポールを拠点に各国を相手に仕事をして、商売や経営というのは実に面白いものだと感じていました。
でも、まだバランスシート(貸借対照表)はきちんと読めないし、キャッシュフロー計算書も分からない。これは一度徹底的に学ばなければいけないと思っていた矢先、社内の回覧板が届いて「経営学を勉強しませんか」とあった。当時は経営学修士(MBA)の存在すら知らなかったのですが、これだ、とすぐに社内応募しました。
商売の実績は良かったので、役員面接で「行ってこい」と許可されたものの、MBAを学ぶための大学院に入学する能力があるかどうか、事前にGMATという英語で数学を解くテストやエッセーを書くテストが待ち構えていました。結果は合格には程遠い点数。それでそこから1年半、毎週末の朝から晩まで図書館詰めで勉強し、大学院へ入りました。
純粋に、ひたすら、経営学を勉強したかった。最初の会計のクラスで教授が黒板に向かってバランスシートを書いて授業を始めた時には、「これがやりたかったんだ」と涙が止まりませんでした。
社会人になってからの勉強は、目的をはっきりさせれば自分の弱点を克服させてくれます。そうして大学院でも、僕は工場勤務時代と同じように教授たちに質問しまくっていました(笑)。やっぱり質問すると、どんな人でも熱心に答えてくれる、そして喜んで教えてくれる。
若い人には、遠慮しないでどんどん質問をしろと伝えたいですね。それまであまり勉強熱心ではなかった僕でも良い成績を出せたのは、物おじせず積極的に質問をしたことが大きいと思います。
若い経営者から刺激を受ける
米国での2年間の大学院生活では、ゲストとしてやって来る経営者に衝撃を受けました。皆30代後半から40代の若さですが、自分たち一代で事業をつくり上げ、「こういう思いで、こういう商品を作っている」と明確に語ります。どのような質問が来ても強い思いと情熱を込めて答え、それが全て自分の言葉であり、彼ら自身の生き方でもあるんですね。その熱量は圧倒的で、本当に魅力的でした。
僕は日本の経営者と間近に接することが少なく、勝手に自分なりのステレオタイプなイメージを持ち、経営者を遠い存在に感じていました。でも、目の前にいる経営者たちはエネルギッシュな実務家です。この海外の若い経営者たちから、「どんなことも自分で考え、自分で指針を決める」という、目標とする経営者像をつかみました。
そして2年間のMBA留学を終えて、「小さくてもいいから、自分で組織を経営したい」と強烈に思い始めました。勤めていた会社には恩を感じていたので、辞めるのは申し訳がない。でも思いは変わりません。上司に直訴したところ、こう言ってくれました。「甘くはない、絶対に失敗するだろう。でも失敗しても格好つけずに戻ってこい」と。
アカデミックな分野も同じですが、失敗から学ぶことは多いです。仕事で良い結果を出すためにも、学び続けていかなければなりません。(談)
出典:2015年7月26日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面