仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「目の前の壁に逃げずに向き合え」
玉塚 元一が語る仕事―3

就職活動

チャレンジしないリスクは大きい

「練習は不可能を可能にす」

米国の大学で経営学修士(MBA)を取得して帰国してから、勤務していた会社から離れIT企業に移ります。そこでコンサルティングを担当したご縁で「ユニクロ」の柳井正社長に誘われ、「丁稚(でっち)奉公をしながら商売の原理原則を一から学べる」と、ファーストリテイリング社へ入社しました。まだ本社は山口県にあり、全国でブレークする前夜という時期でした。最初は現場である店頭業務からです。段ボール箱を運び、在庫を管理し、毎日汗まみれです。

それから会社は急成長し、最終的には社長をやらせて頂いて、柳井さんと一緒に本当に濃い7年間を過ごしました。変化することが日常で、知恵を絞り全身全霊で働きました。

柳井さんは、寝ても覚めても経営のことを考え、縦・横・斜めに数字を眺め、そして、その背後にある現状を把握する労を惜しまなかった。「事実をつかめば、勝負あり」とよくおっしゃっていましたが、現場で起きる事実が全てなのだと学びました。これは現在に至るまで、僕の仕事の根幹を成しています。

若い人にも「がむしゃらに仕事をする」という体験をして欲しい。自分ができるのはこれくらいという思い込みが、やればできるに変わっていく。人は意外な底力を持っているものです。そして失敗から学ぶことも、また多い。経済学者で慶応義塾大学塾長だった小泉信三先生が「練習は不可能を可能にす」という言葉を残されていますが、まさに事実だと思う。成長とは、そういう泥臭い毎日の繰り返しがもたらしてくれるのです。

あなたを評価し、見ている人がいる

この変化の時代には、次の仕事へ進んで自分の力を試してみたい人は多いかも知れません。でも、まずあなたがするべきは、目の前の仕事に全力投球すること。やり切っていないことが多いと思うし、その姿を誰かが見ていて新たなチャンスを与えてくれます。あなたの評価は人がするもので、残念ながら「こんなに頑張っている」と自分で判断すると甘くなります。

もう一つ、ご縁というのがとても大事で、アンテナと感受性を持って、真摯(しんし)にそのご縁と向き合うことが大切だと思います。僕の場合は誘われるというよりドーンと目の前に向き合うべき大きなご縁がやってきて、成長するためには逃してはダメだと直感しました。柳井さんはまさにそうでした。

仕事を取り巻く状況が大きく変化していっても、変わらないのは「限りない積極性と、素直な心を持ち続けること」です。もしそこに新しいチャンスがあったとしたら、リスクとしては、チャレンジするリスクと、チャレンジしないリスク「オポチュニティーコスト」がある。オポチュニティーコストとは、チャレンジをためらって無駄に過ごした機会コスト、時間コストを指しています。

ぜひ、このオポチュニティーコストについて考えてみてください。例えば2年間、やってみたいチャレンジをやり過ごしてしまったら、その2年間で得たかも知れない学びと経験はとてつもないものがある。だから、あなたの仕事ぶりを見ていた人がくれるチャンスには、挑戦した方がいいと思います。

たまつか・げんいち ●(株)ローソン代表取締役社長。1962年生まれ。85年に慶応義塾大学法学部を卒業後、旭硝子(株)入社。97年ケース・ウェスタン・リザーブ大学経営大学院にてMBA取得、サンダーバード大学大学院にて国際経営学修士号取得。98年日本アイ・ビー・エム(株)を経て、(株)ファーストリテイリング入社、2002年同社代表取締役社長兼COO。05年(株)リヴァンプ設立。10年ローソン顧問に就任し、14年から現職。
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