「人の暮らしを一歩でも前へ」
田中 修治が語る仕事--2
風通しが良ければ動ける
問題を僕に出し切れと働きかけた
10代から幾つかの事業を手がけて2億数千万円の負債を背負いましたが、ウェブ事業を軌道に乗せて完済。そして30歳でメガネ小売りチェーンのオンデーズを引き受けます。年商は約20億円だけれど、負債が14億円で破産も目前と言われる状態でした。それでも20億円を売り上げる実力があるなら惜しい、僕が何とか立て直してみたいと考えたのです。
それからすぐ、当時全国で60あった店舗をくまなく訪ね回りました。メガネ業界の経営は初めてというジーンズ姿の若い男が社長としてやってきた時、各店のスタッフたちは「やっぱり間もなく倒産か」と思ったそうです。また、古参管理職の不満は特に強く、百戦錬磨の自分たちでもうまくいかないのに素人に何ができる、とことごとく反発されました。それでも僕には、辛酸をなめた年月も含めて10年近くの事業経験があり、こういう態度の大人たちとも多く接してきています。だから僕らしさのある手を次々に打つしかないと、腹をくくったのです。
訪ね歩いて分かったのは、店によって違いがかなりあるということ。若いスタッフが生き生きと働き、掃除が行き届いて接客も良い店もあれば、店長がスタッフに商品であるメガネを自ら買うように毎月指示している店もありました。これは叱り飛ばしましたよ。スタッフを追い詰めて数字を上げるなんてビジネスの自滅ですから。投げやりな空気を覆したくて、僕は販促の方法や新ブランドの製作に必死になり、結果、売り上げはじりじりと伸び始めました。
店にはまた、スタッフの不満やグチもあふれていました。給料の低さ、評価基準の不備、上からの納得できない指示など山ほどありましたが、でもその口ぶりには、もっと顧客にいいサービスをしたいという気持ちが見え隠れしていました。ここにある不満が解消できれば、仕事への燃料に変えていける。徹底して納得できる仕組みを作れば、みんなきっと変わる。僕はそれを考え抜くことにしました。本来、仕事は挑戦的で面白いものだからです。
人事をオープンにする選挙制度へ
多くの職場にある不満の大きな要因。その一つは人事評価に納得がいかないということでしょう。「君には期待しているから」とか「成果が出たら給料を検討するから」とかと言われても、じゃあ成果って何なのか、その基準が分からない。なぜ同僚が人事考課によっていいポジションに異動したのか。なぜ自分では駄目だったのか。そういう不透明さが、思い切った仕事への足を引っぱっていないだろうか。
考え抜いた結論は、「僕は人事の役割をやめるから、全て選挙で決めてくれ」でした。希望のポジションを手に入れたければ、立候補してプレゼンし、投票結果に従う仕組みです。知識や技術は後からでも学べる。でも、やる気や人望は近くにいる人間がかなり正しく判断できるはずです。給料もポジションに準じて明確にしていきました。仕事は、モヤモヤした感情に邪魔されることがないようにするべきではないでしょうか。
人事に採り入れたこの選挙の仕組みは、人が納得して働くための本質を突くものだと思っています。(談)