「楽な選択はいけないよ」
森下 篤史が語る仕事--3
充実人生は「私」が選ぶ
「激流コース」と「菊水コース」
就職した会社を32歳で退き、業務用食器洗浄機の販売会社を起業。同時に幾つかの副業にも挑みましたが軌道に乗せることができませんでした。やむなく、再起を目指して現在の中古厨房(ちゅうぼう)機器販売会社を起こし23年になります。当初は人材採用に非常に苦労し、この人に務まるだろうかというような仕事にあぶれた人たちも雇い入れました。
ただ、自分だって大した人間じゃないといつも思っています。若い頃を思い返せば情けない行動もした。それでも、人は機会を得ればいつかは良くなっていくと考えていたので、その方法を自分なりに「科学」してみたのです。私は仕事が好きでがむしゃらになる性格だけれど、社員には、真面目に長く働ければいいというタイプが多い。神様が与えてくれた性格は人それぞれ、そして求める充実感も違うのだと思いました。
そこで、パートさんも含めて全員に「マイライフシート」と名づけた個人の申告書のようなものを書いてもらいました。今までの人生の善しあしも含めて、やってきたこと、これからのことをできる限り正直にね。それを基に全員と1時間の面接をする。従業員が多いので毎日誰か1人と会っても、全員と話すには2年近くかかります。分かったのは、仕事でもっと成長したい人が1~2割、その他はほとんどが穏やかに暮らしたいタイプで、わずかに、怠けたいというヤツもいたけど(笑)。
私はそれぞれが求める人生の充実感に合わせ、希望をかなえる二つのコースを考えました。徹底的に仕事の訓練を受けて人生の荒波を乗り越えていく「激流コース」。これは自分からグイグイと動いて成長したい従業員が受けます。片や夕方5時には退社し、例えば家で菊に水をやるような「菊水コース」。つつがなく目の前の仕事をやり遂げる毎日が幸せという社員が受けます。こう並べると優劣をつけるのかと誤解されそうですが、違います。自由に自分自身で選べばいい。会社が個人の人生設計に沿うように、アドバイスをしていくという仕組みにしたのです。ちなみに定年も自己申告です。
くじけずに変化しよう
激流コースに入ってみたけど厳しすぎてついていけないなら、菊水コースに変われる。逆に頑張りたいと火がついた人は、激流コースに突入しても構わない。人の気持ちは時の流れや家庭環境など、様々な要因で変化するのは当たり前だと思う。頑張る気持ちが湧いてくる時も、少しスローダウンしたい日々もある。だから仕事への向き合い方も自分で選んで欲しいのです。
人には、隣の芝生が青く見えることがあります。転職も試してみればいいですよ。うちは何年経っても戻れるように、入り口は開けています。社内の部署異動も、自分が行ってみたい部署の上司と話がつけば構わない社内フリーエージェント制です。厳しく言うなら、やってみなければ、痛い目に遭わなければ手にできない経験も、その人なりの成長を決めていくと思いますね。
大切なのは、自分が充実できる価値観は何か、それを、人からの受け売りではなく自身のために知るという行動ではないですか。(談)