仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「直感を掘り下げよう」
横川 正紀が語る仕事--3

就職活動

迷うなら根っこに帰れ

「やりたい」思いで動いてみる

インテリアデザインへの興味があり、大学は京都の美術大学の建築学科へ。夜は繁華街・木屋町のバーで朝6時までアルバイトをしていました。バーには様々な人が来ましたが、そこでクラブイベントをやっている人たちと出会い、費用集めをやりながら先輩や仲間たちと企画を作り上げ、仕掛けて人に共感してもらえる面白さを知りました。これなら何かできると手応えをつかんだ体験です。
 
卒業後はインテリア販売の企業に就職しますが、約3年で経営が行き詰まりました。僕は会社の立て直しに関わり、アドバイザーをプロの経営コンサルタントではなく、学生時代に大好きだったインテリアショップ「ジョージズファニチュア」のオーナー、天野譲滋氏に依頼しました。僕は今でもビジネスのライバルは個人店だと思っていますが、彼の店にも独自の魅力があふれていたからです。
 
やがてその天野氏とインテリア事業を始めることになり、好きな家具や雑貨に囲まれる暮らしには「食」が欠かせないと感じてカフェを併設します。こうしてだんだんと食の仕事に入っていったのですね。
 
それから縁あって、何と大手商社から「ディーン&デルーカ」を日本でやらないかという話が飛び込んできました。それは、僕がアメリカで感動した「食の美しさ」を楽しめるグローサリーストア(食料品店)。日本にはまだそういうセンスのいい食材店がなく、憧れていた僕に迷いは一切ありませんでした。考えてみれば、食品販売も外食も全くの素人なのに「やりたい」気持ちがいつも最優先になる。それが自分らしい仕事力なのかも知れません。
 
当時のディーン&デルーカは、本当に多くの良質な食品を選び抜いてお客さんを幸せにしていました。しっかり学ばなくてはと意気込んでいたのですが、マニュアルもアイテムリストもなく、量り売りの惣菜(そうざい)もレシピがありません。ここは、素晴らしくセンスのいい店主がいる個人店が集まった市場なのだと知りました。でも、日本での開店には詳細な資料がいる。結局、全アイテムを一つずつお店から買い、生産者ラベルを読んで直接問い合わせるという膨大な作業で乗り切るしかありませんでした。

「君の店に蕎麦(そば)はあるのか?」

資料ぞろえに必死な僕は、創業者の一人、ディーン氏から「こまごまと写真を撮るな!」と怒られ、「ディーン&デルーカってどんな事業?」と聞くと「それは感じるものだ、アートだよ」という答え(笑)。創業者たちはまるで哲学者のようでした。諦めずに色々質問して再編集し、言語化、ビジュアル化してガイドラインを作り、ビジネスモデルに変えていったのです。
 
苦労して「丸ごとのディーン&デルーカ」を日本に持ち込み、街を選んで4店舗まで増やしたものの業績は伸び悩みました。3年後、思い余ってニューヨークにデルーカ氏を訪ねると、「蕎麦はあるのか?」と問われたのです。彼のルーツはイタリアで、パスタやチーズなどの豊かな食材をニューヨークに住まう人々に伝えたくて最初の店を開きました。「君たちは日本人の暮らしに根差した食材を届けているのか」という問いに、僕は事の本質に気づきました。それは「形」ではなく、「根っこ」だったのです。(談)

よこかわ・まさき ●ウェルカムグループ代表。1972年生まれ。大学卒業後、2000年ジョージズファニチュア(現〈株〉ウェルカム)設立。食とデザインの2軸で、「ディーン&デルーカ」「シボネ」など良質なライフスタイルを提案するブランドを多数展開。また商業施設やホテルのプロデュース、官民の枠を超えた街づくりや地域活性のコミュニティーづくりへと活動を広げる。武蔵野美術大学非常勤講師。著書に『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方』がある。
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