やりにくくなった模擬投票

芝浦工大柏高校教頭・杉浦正和さん

杉浦正和さん
[ 更新日:2016.07.07]

学校では2003年から国政選挙のたびに模擬投票をやっていて、今回の参院選で11回目になります。生徒で選挙管理委員会を組織し、投票で実際の政党を選んでみる。本物の投票箱を買って玄関に置き、事前にホームルームで配った投票用紙を登下校時などに入れてもらう仕組みです。

投票は自由にしていますが、例年、投票率は中学生が70~80%、高1が60~70%、高2が50%前後。今回、ざっと4分の1強が有権者になる高3は、受験で多忙なこともあるのか、30~50%と低い。

模擬投票期間中、選ぶ材料にしてもらおうと、私は授業で、複数の新聞から引用した党首の第一声と顔写真を載せた「社会科通信」を配っています。投票箱の近くには、ほぼ全ての政党の選挙ポスターを貼っています。

ただ、教員の間では「18歳選挙権になって、模擬投票はむしろ、やりにくくなったね」と話しています。

普通の教員なら萎縮してしまう

18歳選挙権の導入を受けて総務省と文部科学省が出した教員版の副教材には、細かく制約が書かれています。各党の公約(マニフェスト)集は、教員が回覧するのではなく「生徒が政党のウェブサイトから情報収集するなど自ら集めるよう指導することが適当」。学習プリントは「生徒自ら、新聞記事やニュースサイトなどから情報を収集させることが基本」。教員は選挙広報以外教えるな、資料を作るなというトーンが濃厚です。

選挙広報には、名前と顔写真と一言があるだけ。詳しい政策については触れられていないし、違いもわかりにくい。教員が公的な資料で公平にわかりやすく示して「なんだそんなことか。じゃあ投票に行くか」と生徒に仕向けなければいけないと思います。

副教材には、教員が各政党の主張をまとめる場合、「各政党の主張を平等にまとめない限り、選挙運動のために使用する文書図画と認められるおそれがある」。平等にまとめても「プロジェクター等で投影し、生徒に見せる場合には、各政党の主張を平等に扱わない限り公職選挙法に違反するおそれがある」ともあります。プロジェクターに映す時間まで暗に示しています。

普通の教員なら萎縮してしまいますよね。選挙期間中はそんな細かいことを気にせずに並べてわいわいやって、生徒が最終的に自分で選べばいいと思います。そうしないと判断力も鍛えられませんよね。もちろん大前提として、教師が特定の政党がいいと言うのは論外です。

現実の問題に踏み込まない姿勢

副教材のQ&Aには、政治的に対立する見解がある現実の課題を指導する際の留意点について「一つの結論を出すよりも結論に至るまでの議論の過程が大切」と書かれています。対立させず、現実の問題には踏み込まないというスタンス。こうした姿勢と、例えばアベノミクスに賛成か反対というような、現実の選挙を前にして展開される論争とは、かけ離れている気がします。

選挙で人を選ぶためには、生徒がとりあえずの結論を出さなければならない。その仮の意思決定の上で、反対の立場の人と意見を交わすことが大事なのです。

私は以前から年に4回、授業でディベートをやっています。18歳選挙権をテーマにした時には、「学校で教えられるのか」「いい加減な若者が多い」といった理由で、反対論のほうがやや多かった。ただそれは、模擬選挙の投票率が示すように、選挙に関心がないということではない。関心の高い生徒がむしろ、周りを見回して反対に回ったのかもしれません。(聞き手・田渕紫織)

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